2025.10.24
2025年8月21日(木)18:30~20:30に、Microsoft Base Kanazawaで能登復興ローカルシフトアカデミー2025のプレイベントを実施しました。地域の未来を創造しようと奮闘する石川県内の実践者のリアルな声が聞こえてきたトークイベントでした。登壇したのは、能登町で椎茸農家を営む上野朋子さん、Uターンしてケロンの小さな村の副村長になった古矢拓夢さん、そして「関係人口」として金沢市から能登と深く関わる道家陽介さんの3名です。
イベントでは、彼らが語る能登の魅力が、いずれも「人との関係性」に基づいていることが浮き彫りになりました。震災という困難な状況を支えたのは、日頃から築いてきた「人との濃いつながり」でした。また、都会にはない環境だからこそ生まれる「ゼロから創る楽しみ」や、誰もが自分の人生の主役であるという「主体的な生き方」が、能登町や彼らに活力を与えていました。
特に印象的だった「若者が主役のワクワクする活動」「困難を支えるコミュニティの絆」「持続可能な新しい関わり方」という3つのポイントから、被災地のリアルな声と共に、これからの地域との関わり方や、自分らしい生き方を見つけるヒントを見つけていきましょう。
日 時:2025年8月21日(木)18:30-20:30
場 所:Microsoft Base Kanazawa

「能登には、都会にあるようなエンタメがマジでない。それが好きなんです」
東京から移住した拓夢さんは、一見不便に思えるこの環境が、逆に「自分たちで楽しみを創り出す」という豊かさを生んでいて、お店を探す代わりに「うちの空き地でBBQしようぜ!」と仲間が集まり、お金では買えない「ゼロから創る楽しさ」があります。
この「ワクワク」を原動力にする考え方は、地域を元気にしたいという気持ちにあります。拓夢さんは現在、能登町を中心として若者グループ「若衆の会」の活動に力を入れています。震災後の復興会議で若者の声が届きにくい現状にもどかしさを感じ、「自分たちの街の未来を、自分たちで考える」ための主体的な場を作ろうと考え活動しています。課題を深刻に捉えすぎず、自分たちが「ワクワク」できることから始める。その純粋な気持ちが周りを巻き込み、未来を創る大きな力になると感じました。

椎茸農家を営む上野さんの体験は、日頃から築いてきた「人とのつながり」が、非常事態の時に、いかに大きな力になるのかを教えてくれました。
地震で栽培ハウスが大きな被害を受けた直後、復旧作業に駆けつけてくれたのは、日頃から直接取引をしていたスーパーの担当者など、お付き合いの深い取引先の方々でした。市場出荷から直販へ切り替え、顧客と丁寧に築いてきた「濃い関係」が、最大のピンチを救ってくれたのです。「良い関係を築いてきて本当に良かった」と、 上野さんは語りました。
この「つながりの強さ」は、能登町の文化そのものです。お葬式があれば近所の人が集まって料理を作り、玄関先には育てた野菜がそっと置かれている。そんな「お裾分け」が当たり前の文化が今も息づいています。
石川県外から来て、現在は金沢市に住んでいる道家さんも「(能登町の人は)最初は他人だったのに、だんだん家族のように扱ってくれる。『気を使うと逆に怒られる』くらい懐が深い」と語ります。
この温かいコミュニティの存在こそが、人々を惹きつけ、震災のような困難な時にも地域を支える大きな力となっていることが伝わってきました。

金沢市に住みながら能登と深く関わっている道家さんは、地域との新しい関わり方を提案します。道家さんは「『かわいそう』をベースにした関わりは長続きしない」と、発災後に感じたと言います。ボランティアに1回参加して終わりではなく、その地域を好きになり、観光で訪れたり、特産品を買い続けたりするような、持続的な関係が重要だと考えました。そのために必要なのは、「楽しいから行く」というシンプルな動機が大事と語ります。
道家さんは、IT専門家として東京・金沢・能登の面白い人たちをつなぎ、新しい企画を生み出すことで、関わる人自身も楽しみながら地域に価値をもたらそうとしています。これは、移住(定住人口)でも観光(交流人口)でもない、地域と多様な形で継続的に関わる「関係人口」そのものです。
この「関係人口」は、災害時に地域を気にかける精神的な支えとなり、「防災にもつながる」という新しい視点も、イベントの中で示されました。特定の地域に縛られず、多様な人やスキルを「組み合わせる」ことで面白さを生み出す。この柔軟な関わり方は、これからの時代の地域づくりの大きなヒントになります。
Q. なぜ能登に行くと元気がもらえるのでしょうか?
この問いに、拓夢さんは「『生かされている』のではなく『生きている』人が多いから」と答えました。都会では会社の歯車として「生かされている」感覚になりがちですが、能登では誰もが自分の人生の経営者のような主体性を持っている。その「生きている」実感こそが、訪れる人に強烈なエネルギーを与える源だと考えています。
Q. 都会と能登での「個人の存在感」の違いは?
都会では自分がその他大勢の中の「N分の1」に感じられるのに対し、能登ではどうか。この質問に、拓夢さんは「僕が能登に来た大きな理由はそこです」と強く共感しました。東京では自分一人がいなくても世界は回る。しかし能登では「自分がやらないと、誰もやってくれない」状況が当たり前にあります。この「自分ごと」として物事に取り組まざるを得ない環境にこそ、面白さと自分の存在価値を見出せると語りました。

今回のイベントを通じて見えてきたのは、能登の魅力が美しい自然や食文化だけにとどまらない、もっと根源的な「人の生き方」そのものだということ。
登壇者に共通していたのは、震災を単なるマイナスからのスタートではなく、未来をより良くするための「きっかけ」として捉える、力強く前向きな姿勢です。その原動力となっているのが、イベントで繰り返し語られた「ワクワクする気持ち」と、それを支える「人との濃いつながり」です。
都会の便利さや匿名性の裏で私たちが失いつつあるかもしれない、「生きている」という主体的な実感や、かけがえのない個人としての存在価値が、能登には色濃く残っています。
彼らの話は、能登という特定の地域に限ったものではありません。義務感や同情心だけでなく、ポジティブな感情こそが人を動かし、持続可能な活動を生み出す。この事実は、私たちがこれから自分のコミュニティや社会とどう関わっていくべきか、大きなヒントを与えてくれます。
能登町には、教科書には載っていない、リアルな課題と、それを乗り越えようとする人々の熱い想いがあります。そして、あなたを待っている「ワクワク」がきっとあるはずです。

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